ご挨拶 新しい訳詞をめざして

 

ここに載せたのはそのまま歌える訳詞です。

訳詞を始めたきっかけは国際フランツ・シューベルト協会の演奏会で、実吉晴夫さんの訳で《白鳥の歌》を聞いたことでした。音楽もドイツ語の歌詞もよく知っている歌曲集でしたが、耳に飛び込んでくる日本語のインパクトと理解の直截さは衝撃的でした。限りなく直訳に近く、しかも簡潔にして論理的。これまでの花鳥風月を歌い、韻律の調子のよさに流れがちなものとは一線を画した、新しい訳詞の世界でした。

私も作曲家が構築した世界と同等のインパクトを持ち、音楽のフレージングに忠実で、歌いやすく聞きやすい訳詞を作って、歌っていきたいと思っています。

 

原題のアルファベット順に並んでいます。(ブラームス「ドイツ民謡集」は番号順に並んでいます。)

この訳をコンサートなどでお使いになりたい方は、飯野までご一報ください。 


Die Sonne scheint nicht mehr (ドイツ民謡集 5

もう陽は輝かない

 

1.   はや日はかげり こころは沈む

    無邪気な日々は もう戻らない

   燃え上がる炎より

   燃えさかる恋心

   消すに消せぬ

   胸の思い

 

2.   夢にみるのは きみのおもかげ

      遠く離れて ひとり悩む

   燃え上がる炎より

   燃えさかる恋心

   消すに消せぬ

   胸の思い

 


Da unten im Tale (ドイツ民謡集 6

向こうの谷間では

 

1.   谷間に暗く 川はながれ

     僕の愛は 届かない

 

2.   口を開けば 愛だの恋だの

     そこに少し うそがあるわ

 

3.   君が好きだと 何度告げても

     だめなら ひとり旅に出よう

 

4.   愛のひとときに 感謝するわ

     どこか遠くで しあわせにね

 


Feinsliebchen (ドイツ民謡集 12

娘さん はだしはおよし

 

1.  そこの娘さん はだしはおよし

     きれいな足がだいなしだ

     ララララ ララララ

     きれいな足がだいなしだ

 

2.  でもはだしでも 仕方がないわ

      靴なんて持っていないもの

 

3.   なんてかわいい娘 僕とおいで

      きれいな靴を買ってやろう

 

4.  そんな旦那様 めっそうもない

     あたしはただの召使い

 

5.   僕は女中でも かまいはしない

      愛と操があるならば

 

6.   操なら 守ってきたわ

      生まれたままの生娘よ

 

7.   誠こそ お金に勝る

      おまえを妻に迎えよう

 

8.   さしだした その手のなかに

      きらりと光る 金の指輪

 


Maria ging auswandern (ドイツ民謡集 14)

マリアはひとり旅に出た

 

1.  マリアは ひとり

     遠い町に 旅に出た

     救い主をさがしに

 

2.   主は 今どこに?

     ヘロデの 館に 

     憂に しずんで

 

3.   十字架はさだめか

     エルサレムの 町へ

     苦しみを 受けるため

 

4.   頭に 食い込む

     いばらの かむり

     道行は 始まる

 

5.   心に とめよ

     老いも若きも

     天の耐えた 仕打ちを

 


 Schwesterlein (ドイツ民謡集15)

お姉ちゃん

 

1.   お姉ちゃん お姉ちゃん いつ帰るの?

     「鶏が鳴いたら おうちに帰ろうね

     弟よ 弟よ 待っててね」

 

2.   お姉ちゃん お姉ちゃん いつ帰るの?

     「明日の朝がきて 楽しみが終わったら

      弟よ 弟よ 帰ろうね」

 

3.   お姉ちゃん お姉ちゃん もう時間だ

     「わたしのいい人が踊ってくれるのよ

      弟よ 弟よ 楽しいわ」

 

4.   お姉ちゃん お姉ちゃん 顔が青いよ

     「朝の光で 青く見えるのよ

      弟よ 弟よ 露でぬれたの」

 

5.   お姉ちゃん お姉ちゃん ふらふらしている

     「わたしのベッドをさがしておくれ

      きっと すてきね 草の陰は」

 


Der Reiter spreitet seinen Mantel aus (ドイツ民謡集 23

騎士はマントをひろげ

 

1.   騎士は緑の草に

     マントをひろげ

     娘に語りかける

     こちらにおいで

     髪が濡れないように

 

2.  あなたのおそばに

     腰かけるなんて

     黒いひとみのほかには

     なんにも持っていない

     貧しいわたしは

 

3.   騎士は窓をのりこえ

     夜ふけの部屋へ

     わたしにはできない

     彼の気持ちを

     こばむことなんて

 


Mein Madel hat einen Rosenmund (ドイツ民謡集 25

僕の彼女はばら色の口唇

 

1.   ばら色の口唇

     あまいキスの味

     いとしい君

          *栗色巻き毛のお嬢さん

     おお ラララララ

     おお ラララララ

     ぼくは夢中だよ

 

2.   赤いほっぺの色は

     雪にはえる 朝焼け

     いとしい君 

    *リフレイン

 

3.   きらめく夜の星

     つぶらな瞳よ

     いとしい君

    *リフレイン

 

4.   青空のように

     すなおな その心

     いとしい君 

    *リフレイン

 


Ich stand auf hohem Berge (ドイツ民謡集27

高い山から

 

高い山から村を眺める

そこにかわいい娘と

三人の男が

 

ひとりは石屋で ひとりは大工

三人目は軽騎兵

目と目が合った

 

ふたりは連れだって 村の酒場へ

娘のおしゃれな服は

飲み代になった

 

服まで飲んじゃって お金もなし

しかたなく娘は 夜暗くなってから

家に帰った

 

「ああ 母さん、 彼とは気が合うの

ベルギーの軽騎兵は

勇敢な男よ」

 

 遅くに眠って 早起きして

ふたりで朝のコーヒー

ブランデー入りで

 


Dort in denWeiden steht ein Haus (ドイツ民謡集 31

野原のはずれに小さなおうち

 

1.   野原のはずれに 小さなおうち

     窓から顔出す おんなの子

     船のゆきかよう 流れをながめる

     愛しいひとを 待ちわびて

 

2.   朝方に歌う 愛のあいさつ

     船は下りゆく ライン河

     夕べには小舟も 岸辺でたゆたう

     ふたりで過ごせる うれしさよ

 

3.   にわとこの茂みで 鳥が歌う

     ふたりの喜び そのままに

     年が明けたなら 所帯をかまえる

     ライン河一の 果報者

 


Es wohnet ein Fiedler  (ドイツ民謡集 36

フランクフルトのヴァイオリン弾き

 

ひとりの男がおったとさ

背中に大きなこぶひとつ

ヴァイオリンを奏でれば

道行く人みな踊り出す

 

「兄さん ちょいと来ておくれ」

ひとりの女が言いました

「ヴァイオリンを弾いておくれ

魔女の祭りに花を添えに」

 

ヴァルプルギス山の夜はふけ

魔女は踊る 輪になって

「さあ ほうびには何がいいかい

すてきな音楽のお礼だよ」

 

背中に腕を差し入れて

ひょいとこぶを取り去った

「息子よ これで良し

かわいい娘をものにしな」

 

 


Es steht ein Lied (ドイツ民謡集 44

菩提樹が一本立っている

 

 

1.   向こうの谷間に 立つ菩提樹

     かなしみを悼む わたしのために

     失われた恋を 失われた恋を

 

2.   垣根で憩う 小鳥でさえも

     なげき歌うよ わたしのために

     失われた恋を 失われた恋を

 

3.   野原に湧き出る 泉さえも

     涙をながす わたしのために

     失われた恋よ 失われた恋よ